So-net無料ブログ作成

Serenade1 [小説]

 関係を深める事に躊躇していたのは、どちらだったのだろうか。
 俺は自分が想いを寄せている女性に今夜逢う約束を取り付け、集合場所へと向かうべく電車に乗っていた。ドアの傍に寄り掛かりガラス越しに流れる風景を見ていたが、考えるのは全てこれから逢う彼女の事だけだった。
 彼女と言っても、恋人関係ではない。俺の認識だと、友達以上恋人未満というのが一番しっくりくる。
 初めて会った時から、彼女は不思議な雰囲気を持つ女性だった。陶磁器の様な肌と艶やかな肩の辺りで揺れる黒髪を備えた容姿は、名画から抜け出たように整った美しさで神々しささえ感じたのを昨日の事の様に覚えている。古風な口調も特徴的で驚かされた。
 妹の知人として知り合ったけど、妙に気が合ってよく話をするようになって…自然と俺の中では傍に居て欲しい存在になっていた。今では彼女の全てが愛しい。『宵』と呼ぶその声も、俺を映す瞳も、服越しでも分かる細い腕も。
 彼女に逢ったら、まず始めに何を言おうか。何時もと同じく差し障りの無い話から始めるべきだろうか。
 はっきり彼女に想いを告げるという今回の目的を忘れない程度に、俺は頭の中で予定をシミュレーションし始める。車窓を流れ過ぎていく景色は、何時しかイルミネーションが目立ち始めていた。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:moblog

Intermezzo [小説]

 俺の思い人を誘って、二人きりでフランス旅行に行った。
 だが、当初俺が知りたかった彼女の事についてはほとんど知る事ができなかった。
 唯一俺に与えられたのは、彼女が言った言葉。
 それだけだった。

 旅行から帰ってきた後、暫く頭の中では彼女の言葉だけが何度も繰り返し再生されていた。
 それは家にいても、もちろん大学に来ていても同じだった。
 どちらかといえば熱心に説明していると思われる教授の声も、完全に素通りである。

—‥宵。『御前の知らない事は、御前を傷付けない』のだよ—

 俺の知らない事は、決して俺を傷つける事はない。
 それはつまり、知らぬが仏という意味で。
 これ以上、俺が知ろうとしないようにという忠告だ。
 遠回しな拒絶の言葉。
 ‥以前の俺ならば、その言葉を突きつけられた時点で彼女の事は諦めていただろう。
 世界は常に流れの中に存在し、不運にも縁が無かったのだと。

 けれど、何故か今度に限ってそうは思いもしなかった。
 単なる執着心や淡い期待による考え方の変化なのか。
 それとも、彼女が俺に言葉を突きつけた時に感じさせられた、あのかすかな声と体の震えが気になるのか。
 どちらにしろ、諦める気が無いのは一番確かな真実。
 なら、ここで立ち止まっている訳にもいかないだろうな。
 彼女が俺にくれた言葉は、俺なりに都合の良い様に考えてしまえばいい。
 開き直ってしまえば、何てことは無かった。
 むしろ、気持ちは楽になったかも知れないくらいだ。
 今の中途半端な関係はもう放ってはおけない。
 変える為に踏み出すのはきっと今しか機会は無いんだ。

 講義が終わると、プロジェクターの眩しい青白い光を突っ切って一目散に教室を出た。
 午後の講義の前に、早く彼女と話したかった。
 彼女の声を聞きたい。
 前向きに一歩前進し、僅かに残る不安を期待に変えたくて。

 俺は人気の無い場所を探して、結局棟同士を繋ぐ四階の連絡通路にたどり着いた。
 ここからは自然に囲まれた大学の外までもが一望できる穴場的スポットだ。
 後ろのポケットからオニキスブラックの携帯電話を取り出すと、俺は彼女の電話番号を手早く押していく。
 早く電話を繋ぎたくて。
 一つ一つの番号を押しているその時間も。
 押し終わって、ただ相手の応答を待つ短い間さえも。
 とても長く感じた。

トゥルルルル…
トゥルルルル…
トゥルルルル…

 数回のコールの後、電話は運良く繋がった。
 それと共に、勢い良く聞きたかった彼女の声が俺の耳に飛び込んでくる。
『宵?!』
「うん、俺だよ。昼食の時間に電話かけて悪いね」
 かかって来るはずが無いと思っていたのか、彼女は少しばかり驚いていた。
 あまり感情を表に出さない彼女なだけに俺は意外な反応に戸惑ったが、すぐに落ち着きを払って見せよう。
 彼女は人並み以上に第六感の鋭い女性だから、気付かせない内にこちらのペースに巻き込んでおくべきなんだ。
 俺は何時にも増して策を練り、話の流れを止めずに進めてしまう事にした。
「今、いいかな?」
『ああ。構わんが‥用件は何だ?』
 相変わらず無駄の無い口調に魅力を感じて酔いしれながら、逆に好機だと俺は素直に電話をかけた理由を告げた。
「貴女の声が聴きたくて」
 思いの丈を言葉に込めて。
 その内、どれ程が電波に乗って彼女の元に届くのか分からないけれど。
 数%でも伝わっていたら嬉しいと思う。
 俺は彼女の応答を静かに待った。
 流石に待たされはしたが、暫くして彼女の幽玄な雰囲気が伝わってくるような落ち着いた声が俺の耳に確実に響いてきた。
『フフフ‥宵は面白い事を言う』
「面白いってそれどういう意味‥」
 つい言い返してしまった俺に、彼女は続けて答えてくれた。
『私も御前の声が聴きたかったよ‥宵』
 え?
 俺は思わず耳を疑った。
 空耳か。
 もしくは、夢か何かか。
 けれども、それは確かに現実で。
 彼女がくれた言葉は、本物だった。

 俺の中で燻っていた不安は全てあっという間に希望へと姿を変えていった。
 例え変わらなくとも、気のある女性に『声が聴きたかった』と言われて舞い上がらずには居られるほど、俺はまだ大人じゃない。
 単なる社交辞令で言われた言葉じゃないって、本能的に認識しているんだ。

 この恋を終わらせたくなくて。
 この恋を本気かどうか確かめたくて。
 俺はもう貴女無しじゃ生きられないだろうから。
 いい加減に、煮え切らない態度は止めにするよ。

「今日の夜、空いているかな?逢いたいんだ」

 貴女のその一声が、俺を捕らえてマリオネットの様に離さないって事、知ってる?

〈end of scene‥〉

<リテイクあとがき>
 これを書いた時のテーマは、ずばり『声』でした。『Nocturne』の続編ですが、単品でもいける…ハズです(・_・)気になった方はどうぞ、前編も読んでみて下さいませ。
 舞台が所属の大学となっているので、場所が分かる方は想像していただけたらと思います。連絡橋、大好きです(笑)
 更に話は続きまして、後編といいますか、完結(?)編を予定しています。この後に。そちらに関してはまったり連載形式で行きたいと思います。まだ書き始めたばかりですが、お付き合いくださると嬉しいです。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:moblog

Nocturne [小説]

 俺は奥瀬宵(十九)。この年にして、初めて恋をした。我ながら遅すぎやしないかとは思うけど、こればかりは仕方無い。理論では片付けられない事だから。
 彼女は特に大人びた女性で、肩辺り迄の黒髪と陶磁器の如く白い肌が綺麗な和服美人という印象である。
 だが、俺の思い人である彼女をそれ以上全く知らない事に、今更ながら俺は気が付いた。何処に住み、職業は何で……、そして俺をどう思っているのか。俺自身からも彼女からも、その話題を持ち出した事は無い。急に不安が募ってきた。

 片思いのままで居たくない。

 彼女の事をもっと知りたい。

 俺は、彼女を旅行に誘った。

 思いの外あっさりと、彼女は俺の誘いを受けてくれた。行き先はフランス。オランジュリー美術館やモンサンミッシェル等、有名な観光スポットは一通り回り、俺達はセーヌ川沿いを歩いていた。一緒に居られただけでも嬉しかったが、彼女の心の内が知りたい気持ちだけはずっとあった。
「宵」
 彼女の通った声が、ふいに俺の名を呼んだ。無駄な事は口にしない性格の彼女が何を言い出すか、俺は内心ドキドキしながら彼女と言葉を交わした。
「何?ルピナス?」
「うむ。何だ、その‥わざわざ連れてきて貰った分際で尋ねるのは可笑しい気がしなくもないのだが、敢えて問うておきたいのだ。何故‥私を旅行に誘った?その理由を御前の口から聞きたい」
 少し聞きにくそうに彼女は尋ねてくるが、顔はいつもと変わらず無表情だった。一見偉そうな物言いだが、そこが俺的には気に入っている。
 一方、聞かれた俺はその質問が余りにも直球過ぎて答えづらく、何と返せば良いか困った。貴女の事が知りたいから等とは口が裂けてもまだ言えない。
 暫しの間、沈黙が続くも、先に彼女の方がそれを破った。
「宵が言葉に詰まる事ならば、言ってくれずとも‥構わん。宵のその眼を見れば自ずと分かる‥‥」
「え?」
 俺は、彼女の発言に意表を突かれて、本気で戸惑いを覚えた。目が合わない様に、視線を逸らす。俺の気持ちは既に彼女に悟られているのではないかという不安に駆られる。

 たおやかでありながら豪華な美しさを誇る藤の様だが決してしだれ咲かず昇る天女の様な貴女には、俺の手が届かない気がして‥夢か現か幻か‥分からなかった。‥分かりたくなかった。

「俺って、そんなに分かりやすいかな‥?」
「さぁな。一般的な事は分からん。けれど、私には手に取る様に分かる‥‥全て御見通しと言っても過言では無かろうな」
 取り敢えず会話を繋いでおこうとした俺に、彼女は小さく笑みを浮かべつつ俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。少し‥俺の心臓の鼓動が速くなる。全く以て彼女は不可解だ。
 何処かに、不安と期待を持つ俺が居た。
「でもな‥宵。
『御前の知らない事は、御前を傷付けない』のだよ」
 視線を交わして、彼女は俺に見えない短剣を突き付けた。表情に、曇りが見えた気がした。

御前の思慕の念が、私には犇犇と伝わってくる
愛しいと感じれば、それは私にとって苦
ただ願わくは、寄せては返す波の如く変わらずにいてほしい
そして
永遠に目を背けず、険しい山へと登り
一人咲く黒百合を見付けに来て
けして
解けない魔法を掛けるから

 俺達は翌日の便で、フランスを後にした。

What you don't know can't hurt you...?

〈end of scene‥〉

<リテイクあとがき>
 恥ずかしい話を書いたもんだね、まりあさん。旅行についてきてくれてるんだから、もっと積極的にいけばいいものを(笑)ってなわけで、続きます。あとがきだけプチリニューアル。


nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:moblog