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Nocturne [小説]

 俺は奥瀬宵(十九)。この年にして、初めて恋をした。我ながら遅すぎやしないかとは思うけど、こればかりは仕方無い。理論では片付けられない事だから。
 彼女は特に大人びた女性で、肩辺り迄の黒髪と陶磁器の如く白い肌が綺麗な和服美人という印象である。
 だが、俺の思い人である彼女をそれ以上全く知らない事に、今更ながら俺は気が付いた。何処に住み、職業は何で……、そして俺をどう思っているのか。俺自身からも彼女からも、その話題を持ち出した事は無い。急に不安が募ってきた。

 片思いのままで居たくない。

 彼女の事をもっと知りたい。

 俺は、彼女を旅行に誘った。

 思いの外あっさりと、彼女は俺の誘いを受けてくれた。行き先はフランス。オランジュリー美術館やモンサンミッシェル等、有名な観光スポットは一通り回り、俺達はセーヌ川沿いを歩いていた。一緒に居られただけでも嬉しかったが、彼女の心の内が知りたい気持ちだけはずっとあった。
「宵」
 彼女の通った声が、ふいに俺の名を呼んだ。無駄な事は口にしない性格の彼女が何を言い出すか、俺は内心ドキドキしながら彼女と言葉を交わした。
「何?ルピナス?」
「うむ。何だ、その‥わざわざ連れてきて貰った分際で尋ねるのは可笑しい気がしなくもないのだが、敢えて問うておきたいのだ。何故‥私を旅行に誘った?その理由を御前の口から聞きたい」
 少し聞きにくそうに彼女は尋ねてくるが、顔はいつもと変わらず無表情だった。一見偉そうな物言いだが、そこが俺的には気に入っている。
 一方、聞かれた俺はその質問が余りにも直球過ぎて答えづらく、何と返せば良いか困った。貴女の事が知りたいから等とは口が裂けてもまだ言えない。
 暫しの間、沈黙が続くも、先に彼女の方がそれを破った。
「宵が言葉に詰まる事ならば、言ってくれずとも‥構わん。宵のその眼を見れば自ずと分かる‥‥」
「え?」
 俺は、彼女の発言に意表を突かれて、本気で戸惑いを覚えた。目が合わない様に、視線を逸らす。俺の気持ちは既に彼女に悟られているのではないかという不安に駆られる。

 たおやかでありながら豪華な美しさを誇る藤の様だが決してしだれ咲かず昇る天女の様な貴女には、俺の手が届かない気がして‥夢か現か幻か‥分からなかった。‥分かりたくなかった。

「俺って、そんなに分かりやすいかな‥?」
「さぁな。一般的な事は分からん。けれど、私には手に取る様に分かる‥‥全て御見通しと言っても過言では無かろうな」
 取り敢えず会話を繋いでおこうとした俺に、彼女は小さく笑みを浮かべつつ俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。少し‥俺の心臓の鼓動が速くなる。全く以て彼女は不可解だ。
 何処かに、不安と期待を持つ俺が居た。
「でもな‥宵。
『御前の知らない事は、御前を傷付けない』のだよ」
 視線を交わして、彼女は俺に見えない短剣を突き付けた。表情に、曇りが見えた気がした。

御前の思慕の念が、私には犇犇と伝わってくる
愛しいと感じれば、それは私にとって苦
ただ願わくは、寄せては返す波の如く変わらずにいてほしい
そして
永遠に目を背けず、険しい山へと登り
一人咲く黒百合を見付けに来て
けして
解けない魔法を掛けるから

 俺達は翌日の便で、フランスを後にした。

What you don't know can't hurt you...?

〈end of scene‥〉

<リテイクあとがき>
 恥ずかしい話を書いたもんだね、まりあさん。旅行についてきてくれてるんだから、もっと積極的にいけばいいものを(笑)ってなわけで、続きます。あとがきだけプチリニューアル。


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